RAPSTAR ARCHIVE — SEASON 1
ラップスタア誕生
2017
バトルブームの絶頂で「音源」に賭けた228人の第1回。ファイナルには後のシーンを塗り替える名前が並んでいた。
王者
DAIA
Rep
沖縄・コザ
応募
228名
決勝
2017年12月9日(ファイナルステージ放送)
原点にして、予言。
大会の流れ — 応募から決勝まで
応募
公式サイトが用意した6トラックから1曲を選び、即興ではなく「自らのLIFE(生い立ち)を投影した自己紹介リリック」を乗せた1分30秒の動画で応募する。全国から228名が集まった。
一次審査
「将来性」「リリック」「テクニック」「パフォーマンス」の4軸で審査し、10名が通過。
二次審査
番組スタッフが通過者の地元を訪ね、ロングバージョンのライブパフォーマンスを撮影。生活の風景ごと審査する型は、後の「HOOD STAGE」の原型だ。
ファイナルステージ
5名で争う決勝は12月9日に放送。沖縄・コザのDAIAが初代王者に輝いた。
記録 — 何が起きたか
2017年、AbemaTVで「ラップスタア誕生!」は始まった。企画・主宰は、京都でANARCHYを見出したレーベルオーナーでもあるラッパーのRYUZO。制作陣はこの番組を「フリースタイルブームへの完全なるカウンター」と明文化していた——高校生RAP選手権とフリースタイルダンジョンの絶頂期に、即興ではなく音源とパフォーマンスで審査する場を作る、という宣言だ。審査員長はKダブシャイン、審査員はANARCHY、SEEDA、HUNGER、そしてAmebreak編集長の伊藤雄介。MCはオードリーの若林正恭が務め、優勝賞金は「未来を切り開く活動資金」300万円だった。
全国228名の応募から、一次通過10名、地元訪問の二次審査を経て、ファイナルに残ったのは5名。初代王者に輝いたのは沖縄・コザのDAIA、2位はWillyWonka a.k.a. Taka——のちのWILYWNKA、3位はJIROW WONDA。そして残る2人のファイナリストが、武蔵野美術大学在学中のTohjiと、渡辺美奈代の長男でもあるLIL CRAZYだった。DAIAは鋭いリリックとスムーズなフロウ、キャッチーな楽曲制作力を評価されての戴冠だった。
- 放送
- 2017年5月5日〜12月9日、AbemaTVで不定期の特番として放送(全5回)
- Judges
- Kダブシャイン(審査員長)、ANARCHY、SEEDA、HUNGER、伊藤雄介(Amebreak編集長)
- Finalists
- DAIA、WillyWonka a.k.a. Taka(現WILYWNKA)、JIROW WONDA、Tohji、LIL CRAZY
- Staff
- MC: 若林正恭(オードリー) / アシスタント: 岡本夏美 / 企画・主宰: RYUZO
- Prize
- 未来を切り開く活動資金300万円
名場面 — この回を語るなら
Tohjiが出場を決めた理由
のちに日本語ラップの音像を塗り替えるTohjiは、当時ほぼ無名の美大生。本人は後年、「審査員にSEEDAとANARCHYがいたから参加を決めた」と語っている。落ちる側だったこの男の存在が、後にこの番組の見方そのものを変えていく。
バトル絶頂期の「逆張り」
2017年はMCバトルが地上波を賑わせた年だ。その真ん中で、若林正恭のMCという当時のテレビ文法を借りながら、審査基準は即興の勝敗ではなく「LIFEを投影したリリック」。第1回の応募228名という数字は、この逆張りが最初は少数派だったことの記録でもある。
芸能人二世のファイナル進出
元おニャン子クラブ・渡辺美奈代の長男LIL CRAZYがファイナルまで残り、話題を呼んだ。生い立ちを晒す番組フォーマットが、芸能一家の子にとっても「自分の言葉で語り直す場」として機能した。
批評 — シーンに何を残したか
2017年という開催タイミングの批評から始めたい。当時は高校生RAP選手権とフリースタイルダンジョンが牽引するバトルブームの絶頂期で、「ラッパー=即興で勝つ人」というイメージが世間を覆っていた。その真ん中で、この番組は音源とパフォーマンスで審査するという逆張りを選んだ——しかも制作陣自身が「フリースタイルブームへの完全なるカウンター」と言い切る自覚的な設計だ。バトルの強さと楽曲の強さは別のスキルであり、後者を評価する全国的な舞台は当時ほぼ存在しなかった。日本語ラップの現在が「楽曲の時代」であることを思えば、この設計は予言的だったと言うほかない。
そして「優勝を逃した者が後にシーンを獲る」という、この番組最大の逆説もシーズン1から始まっている。ファイナリストのTohjiは、その後Mall Boyzやソロ作品で日本語ラップの音像そのものを更新する存在になった。2位のWILYWNKAは名義を変えて全国区に駆け上がり、2023年には審査員として番組に帰ってきた。オーディション番組の価値は優勝者だけでは測れない——第1回が自らそれを証明してしまったことが、この番組を「結果よりも人材の交差点」として見る文化を作った。
審査員構成も演出として読み解ける。Kダブシャイン、ANARCHY、SEEDA——90年代から00年代のシーンを作った世代に、批評メディアの編集長まで加えた5人が次世代を選ぶ構図は、単なる人選ではなく「正統性の継承」の儀式だった。新しいメディア(AbemaTV)の上で、古い権威が新しい才能に冠を授ける。この緊張関係こそがシーズン1の見どころであり、4年後の審査員総入れ替えで解消されるまで、番組の土台であり続けた。
※「批評」はBARS.編集部の見解です。
その後 — 系譜はつづく
動画審査から地元密着審査、そして決勝へ——この回で組まれた骨格は、翌年の合宿(キャンプ)の追加を経て、9年後の現在までほぼそのまま受け継がれている。応募228名という出発点は、2025年には6,780人になった。
初代王者DAIAは2018年に1stアルバム『Mind Of Legend』をDJ PMXらのプロデュースで発表し、沖縄を拠点にインディペンデントな活動を続けている。全国的スターダムとは別の道を歩む初代王者と、優勝を逃してシーンを塗り替えたTohji・WILYWNKA。「優勝がすべてではない」というこの番組の見方は、第1回の5人が身をもって作ったものだ。
RAPSTAR 2017 王者
Daia
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出場者名鑑 — あの回に出てた人は、いま
WILYWNKA(当時 WillyWonka a.k.a. Taka)
2位
変態紳士クラブのメンバーとして全国区へ。ANARCHYのレーベル1% ONEPERCENTと契約し、2023年には審査員として番組に帰還した。
Tohji
ファイナリスト
Mall Boyz「Higher」(2018)以降、日本語ラップの音像と動員の風景を塗り替えた。この番組の「落選側のスター」系譜の原点。
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JIROW WONDA
3位
MAS所属として出場し3位入賞。大会後の動向は多く報じられていない。
LIL CRAZY
ファイナリスト
芸能一家出身という異色の経歴でファイナルまで進んだ。大会後の音楽活動は多く報じられていない。