RAPSTAR ARCHIVE — SEASON 4
ラップスタア誕生
2020
グライム/UKドリルの語法で頂点を獲る——「日本語ラップの正解」が書き換わった回。
王者
ralph
Rep
横浜
応募
1,416人(当時過去最多・前回の4倍超)
決勝
2020年10月29日(放送)
会場
東京・WWW X(無観客開催)
異端が、正解になった夜。
大会の流れ — 応募から決勝まで
応募
コロナ禍の外出自粛下の2020年5月に応募開始。閉ざされた部屋や誰もいない夜の公園から撮られた動画が1,416本——前回の4倍超が集まった。課題トラックはSTUTS、GeG、MURVSAKI、YamieZimmer、Yung Xanseiが提供。
動画審査 → 2nd STAGE
1,416人から30名へ。以降のステージも配信中心で進む、コロナ禍仕様の大会になった。
3rd STAGE → 4th STAGE
10名、そして8名による1対1の対決形式へ。勝ち残り4名がファイナルの椅子を掴んだ。
敗者復活
落選者4名を対象に、番組公式Twitterのリツイート投票で復活者を決定。栃木・那須のItaqが視聴者の手で決勝に戻った。
FINAL STAGE
東京・WWW Xで無観客開催。各自が楽曲部門とパフォーマンス部門の2曲を披露し、合計ポイントで王者を決めた。
記録 — 何が起きたか
タイトルから「!」が取れ、「ラップスタア誕生」として再始動した回(企画段階の仮題は「RAPSTAR 2020」だった)。看板の掛け替えは徹底していて、シーズン制から年号制へ、深夜30分枠から木曜21時の45分枠へ、芸能人MCを廃止してオーガナイザーRYUZO中心の進行へ、ロゴはGUCCIMAZEの手による新デザインへ——バラエティ番組の枠組みを脱ぎ、シーンの行事へ向かう転換点だった。審査員はKダブシャイン、ANARCHY、SEEDA、HUNGER、伊藤雄介の初代体制が続投。結果的に、これが旧体制の最後の大会になる。
ファイナリストはweekdudus(姫路)、noma、麻凛亜女、Twitterのリツイート投票による敗者復活で戻ったItaq(那須)、そしてralph(横浜)。麻凛亜女は番組史上初の女性ファイナリストである。優勝は当時22歳のralph。グライムやUKドリルからの影響を感じさせる高速かつタイトなラップで応募段階から注目を集めていた実力者が、2位weekdudusに大差をつけて走り切った。審査は割れた——伊藤雄介はパフォーマンス部門でweekdudusを1位に置き、SEEDAも楽曲部門でweekdudusを選んだと明かしたが、総合ではralphが圧倒した。
- 放送
- 2020年8月13日〜10月29日、毎週木曜21:00にABEMAで放送
- Judges
- Kダブシャイン、ANARCHY、SEEDA、HUNGER、伊藤雄介(初代からの体制、最後の大会)
- Finalists
- weekdudus、noma、麻凛亜女、Itaq(敗者復活)、ralph
- Staff
- オーガナイザー: RYUZO / ナレーション: 笠松将
- Prize
- 活動資金300万円
名場面 — この回を語るなら
割れた採点、揺るがない結果
決勝の審査で伊藤雄介とSEEDAはweekdudusに部門1位を付けたが、合計ではralphの圧勝だった。伊藤はralphのスタイルにTHA BLUE HERBとの共通性を指摘している。旧世代の審査員団が、自分たちの美学の外にある音を「正解」と認めた瞬間だ。
リツイートが復活者を決めた
敗者復活は番組公式Twitterのリツイート投票。視聴者が指一本で結果に介入できる仕組みで戻ってきたItaqは、決勝で復活を踏まえた新曲「復活の日」を披露した。敗者復活がこの番組の物語エンジンになっていく、その原型がここにある。
番組史上初の女性ファイナリスト
茅ヶ崎育ちの麻凛亜女は、シングルマザーとしてマイクを握り、番組史上初の女性ファイナリストになった。翌年のCYBER RUI、その後に続く女性応募者たちの風景は、この一歩から始まっている。
この回から生まれた楽曲
N.B.K — ralph
番組のステージで披露され公式映像が公開された、ralphの名を広めた代表曲。
復活の日 — Itaq
敗者復活からの決勝進出という自身の物語をそのまま曲にして、決勝の舞台で披露した。
批評 — シーンに何を残したか
ralphの優勝は、この番組が下した審査のなかで最も批評的な一手だったと思う。グライム/UKドリルの語法は当時の国内ではまだ「輸入物の実験」扱いで、審査員世代の美学とも明らかに別の場所にあった。現に決勝の採点は割れている。それでも勝ったのは、スキルの絶対値があらゆる様式論を封じたからだ。「バトルの強さ」でも「王道のブーンバップ」でもなく、音源としてのかっこよさが正解になる——シーズン1から番組が主張してきた価値観が、最も過激な形で証明された夜だった。
2020年という開催年も無視できない。ライブハウスが止まり、現場の回路が断たれたコロナ禍の真ん中で、ベッドルームから動画一本で全国に届くこの番組の構造だけが動いていた。応募は前回の4倍超の1,416人——行き場を失った表現がここに流れ込んだ数字だ。結果としてこの回は「現場の強い奴」ではなく「音源と映像で完結できる奴」を可視化し、その後のシーンのDIY化・宅録化の流れを先取りした。
そしてこの回は、初代審査員団の最後の仕事でもある。Kダブシャイン、ANARCHY、SEEDA——シーズン1から番組の権威を支えた世代は、最後の審査で、自分たちの美学から最も遠い異端に冠を授けて席を立った。翌年の審査員総入れ替えを知っている今から見ると、これほど美しい幕引きはなかなかない。旧世代が新しい音を「分からないから落とす」のではなく「分からないが本物だ」と通したこと。この番組の審査への信頼は、実はこの夜に作られたのだと思う。
※「批評」はBARS.編集部の見解です。
その後 — 系譜はつづく
ralphはその後2023年・2024年と2大会連続で審査員を務め、「王者が次の王者を選ぶ」循環の中心人物になった。『24oz』(2021)にはSEEDAが客演——審査した側とされた側が、一年後には同じ曲にいた。応募1,416人という数字は、5年後に6,780人まで膨れ上がる成長曲線の起点である。
敗者復活のItaqは地元・那須で弟とのクルー「那須ワイルドボーイズ」を動かし続け、weekdudusは日本コロムビアと組んで50曲入りの『VEGA』を放つ。決勝の5人がそれぞれ別の場所で音を鳴らし続けていることも、この回の遺産だ。
RAPSTAR 2020 王者
Ralph
アーティストページで全曲を見る →
出場者名鑑 — あの回に出てた人は、いま
weekdudus
2位
姫路出身。決勝では2部門で審査員から1位票を集めた。その後は日本コロムビアにアーティストページを持ち、50曲入りアルバム『VEGA』や「Skip To Ma Luuuu」のクラブヒット、Red Bull「RASEN」出演と独自路線を走る。
noma
3位
決勝まで残った実力者。大会後の動向は多く報じられていないが、この回の決勝の緊張感を作った一人だった。
麻凛亜女
ファイナリスト
番組史上初の女性ファイナリスト。シングルマザーとしてマイクを握る姿は、その後のインタビューでも大きな反響を呼んだ。
Itaq
ファイナリスト(敗者復活)
栃木・那須から弟Dirty Kiyomiyaとの「那須ワイルドボーイズ」で活動。2025年にはアルバム『光星人』を発表し、マイペースに独自の世界を掘り続けている。